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現代の SB (2番/3番) の役割 — クラシック・SB、攻撃的WB、インバーテッドFB、サイドバック進化論

SB (Side Back / Full Back / 2番・3番) は、Paolo Maldini・Cafú に代表されるクラシック・SB から、Trent Alexander-Arnold・Achraf Hakimi が体現する攻撃的 WB 型、さらに João Cancelo・Joshua Kimmich が示す「インバーテッドFB(中盤化サイドバック)」へと進化している。Bradley et al. (2010) の Premier League 分析では、SB は試合中の総走行距離 11.5km・スプリント 50 本超で WG と並ぶハイテンポ・ポジション。Pep Guardiola が Manchester City で確立した「インバーテッドFB」戦術は、SB が中盤に絞ることで CMF と同等のビルドアップ機能を担う革命的概念であり、2020 年代の SB 像を一変させた。本記事では、クラシック・SB、攻撃的 WB、インバーテッドFB の 3 類型を定義し、4 機能(守備・クロス・ビルドアップ・走力)、5 指標、ユース育成を解説する。

SB の進化史 — 守備的 SB から「ハイブリッド・ミッドフィルダー」へ

1990 年代の SB は守備中心、2000 年代に Cafú・Roberto Carlos が攻撃参加を標準化、2010 年代に Trent Alexander-Arnold が「クロス供給アシストマシン」として再定義し、2020 年代は Pep の「インバーテッドFB」が SB の概念を根本から変えた。

ボールを運ぶサッカー選手 — SB は攻守の最前線を駆け抜ける

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1990s — 守備中心 SB 時代 (Maldini / Bergomi / Roberto Carlos 初期)

1990 年代の SB はライン際の守備に専念し、攻撃参加は限定的だった。Paolo Maldini は左 SB として 25 シーズン Milan を支え、対 WG の 1on1 守備で世界最高水準。総走行距離は 9〜10km、スプリント数は 30 本前後で、現代の SB(11.5km / 50 本)の半分程度の負荷だった。

2000s — 攻撃的 SB 時代 (Cafú / Roberto Carlos / Lahm)

ブラジル代表の Cafú と Roberto Carlos が「攻撃する SB」を世界に広めた。Cafú は右 SB から 90 分間ライン際を上下動し、クロス供給とプレス回避を両立。Roberto Carlos は左 SB から 35m の直接 FK ゴールを連発した(vs France 1997 の伝説的 FK)。Philipp Lahm は両 SB をこなす技術型として、Bayern Munich の戦術的柔軟性を支えた。

2010s — Trent Alexander-Arnold 革命

Liverpool アカデミー出身の Trent Alexander-Arnold は右 SB でありながら、AM 並みのアシスト数を記録した。2019-20 シーズンに 13 アシストでプレミア SB 史上最多、xA 0.32 は AM 並みの水準。「クロス供給アシストマシン」として SB の評価軸を「守備」から「アシスト」へとシフトさせた。

2020s — Pep の「インバーテッドFB」革命

Pep Guardiola が Manchester City で João Cancelo・Joshua Kimmich・Bayern 時代の Lahm 後期型として確立した「インバーテッドFB」は、SB が中盤に絞ることで CMF と同等のビルドアップ機能を担う革命的戦術。2022-23 UCL 制覇期の Manchester City では Stones が右 SB から DMF にインバートし、3 人の DM を形成して 4-1-2-3 への可変システムを構築した。

現代の SB は「守備のサイド要員」ではなく「攻守両面 + ビルドアップ + 走力」の総合ポジションへと進化した。インバーテッドFB の出現により、SB が CMF や AM の役割を兼任することも珍しくなくなった。

SB の 3 類型 — クラシック・SB、攻撃的WB、インバーテッドFB

現代 SB は、攻守の比重と動線から 3 タイプに分類される。クラシック・SB(守備重視)、攻撃的WB(縦突破重視)、インバーテッドFB(中盤化)である。

1. クラシック・SB (Classic SB)

  • 配置: 4-4-2 / 4-2-3-1 / 5-3-2 のサイドバック
  • 動線: 守備時はライン、攻撃時は限定的なオーバーラップ
  • 主要技能: 1on1 守備、空中戦、クロス、ライン管理
  • 代表選手: Antonio Rüdiger(CB 兼任)、César Azpilicueta(peak)、Fabio Coentrão
  • 特徴: 守備に特化、攻撃参加は限定的

2. 攻撃的WB (Attacking Wing-Back)

  • 配置: 3-5-2 / 3-4-3 のウイングバック、4-3-3 の攻撃型 SB
  • 動線: ライン際を 90 分間上下動、SB と WG の中間役
  • 主要技能: スプリント、クロス、1on1 突破、スタミナ
  • 代表選手: Achraf Hakimi(PSG)、Theo Hernández(Milan)、Alphonso Davies(Bayern)、Andrew Robertson(Liverpool)
  • 特徴: 攻撃時は WG 並みの脅威

3. インバーテッドFB (Inverted Full-Back)

  • 配置: 4-3-3 の SB だが攻撃時は CMF / DMF にインバート
  • 動線: 守備時は SB、攻撃時は中央へ絞り込みビルドアップに参加
  • 主要技能: CMF 並みのパス精度、ボール保持、認知能力
  • 代表選手: João Cancelo(peak Manchester City)、Joshua Kimmich(Bayern)、Trent Alexander-Arnold(後期)、John Stones(CB→SB→DMF)
  • 特徴: SB と CMF のハイブリッド、最も技術的に高度

インバーテッドFB は 2020 年代後半の戦術トレンドの中核。Pep Guardiola が Manchester City で完成させ、現在は Arsenal、Bayern、Real Madrid(時期)など世界のトップクラブに広まっている。

SB に求められる 4 機能 — 守備 / クロス / ビルドアップ / 走力

現代 SB はピッチ上で 4 つの機能を併せ持つ。WG への 1on1 守備、サイドからのクロス供給、攻撃ビルドアップへの参加、90 分間の高強度走行である。タイプにより配分は異なるが、すべてを最低限こなす必要がある。

4-3-3 における左右のサイドバック——タッチライン沿いで守備とクロス供給を両立する
サイドバックは 4-3-3 の両端に位置する。守備・クロス・ビルドアップ・走力の 4 機能を 90 分維持する必要がある。

機能 1: 守備 (Defensive Duty)

敵 WG との 1on1 守備が最重要機能。Premier League トップ SB の 1v1 勝率は 60〜70%。Trent Alexander-Arnold(峰期)65%、Robertson 68%、Hakimi 62%。守備の悪い SB は攻撃力があっても起用されない(例: Marcelo の Real Madrid 終盤期の起用減少)。

機能 2: クロス供給 (Crossing)

ライン際から CF / WG へのクロス供給。Trent Alexander-Arnold の 2019-20 シーズン 13 アシストはプレミア SB 史上最多。クロス精度(試行回数のうち成功割合)は 30〜40% がトップ水準。アーリークロス・スルーパスへの切り替えも要求される。

機能 3: ビルドアップ (Build-Up)

GK / CB からのパスを受け、CMF / WG へ展開する。インバーテッドFB 型ではパス成功率 88〜92% が標準で、CMF と同等の精度が要求される。Cancelo(peak)は 91%、Kimmich は 92%、Trent 90%。

機能 4: 走力 (Sprint Endurance)

90 分間の高強度走行が SB の物理的核心。Bradley et al. (2010) の分析では SB の総走行距離 11.5km、スプリント数 50〜60 本、高強度走行(>20km/h)は試合の 12% 以上。Hakimi、Davies、Theo Hernández は最大スピード 35km/h 超を記録する世界最速 SB。

4 機能のうち、現代では「ビルドアップ」と「走力」の比重が大きく増加している。Pep 系チームではビルドアップ精度(パス成功率 88% 以上)が最低条件、攻撃的システムでは走力(スプリント 50 本以上)が必須。

SB を評価する 5 指標 — 1v1勝率・xA・進歩的キャリー・パス成功率・スプリント数

SB のパフォーマンスは「クリーンシート」だけでは測れない。1v1 守備勝率、xA(期待アシスト)、進歩的キャリー、パス成功率、スプリント数の 5 軸が標準である。

ピッチでボールを蹴るサッカー選手 — SB は 1v1 守備とクロス供給の両軸で評価される

Photo by PAUL MCWILLIAM on Unsplash

1. 1v1 守備勝率 (1-on-1 Defensive Win %)

敵 WG との 1v1 で勝った割合(敵を抜かれずにボール奪取または相手のクロス阻止)。SB の標準は 55〜70%、トップ水準は 65〜75%。Robertson 68%、Trent peak 65%、Hakimi 62%、Davies 70%。

2. xA (Expected Assists)

供給したパスから得点が生まれる確率の合計。トップ SB の xA は 90 分あたり 0.20〜0.40。Trent Alexander-Arnold 0.32、Robertson 0.28、Hakimi 0.24。AM 並みの水準。

3. 進歩的キャリー (Progressive Carries)

ボールを保持したまま敵陣方向に 5m 以上前進した回数。SB の標準は 1 試合 5〜10 回、攻撃的WB 型は 10〜15 回。Davies 12.5、Hakimi 11.8、Theo Hernández 13.2 でリーグ最高水準。

4. パス成功率 (Pass Completion %)

SB の標準は 82〜88%、インバーテッドFB 型は 88〜92%。Cancelo(peak)91%、Kimmich 92%、Stones 95% は CMF と同等。85% 以下は Pep 系チームでは起用されない。

5. スプリント数 (Sprint Count, ≥25km/h)

高強度走行回数。SB の標準は試合あたり 50〜70 本、攻撃的WB 型は 60〜80 本。Davies 65、Hakimi 60、Theo Hernández 62。WG(50〜70)と同等の負荷を 90 分間継続する。

5 指標すべてで平均以上の SB は世界に 25 名程度。Footnote の PVS は SB ポジションでこれらを加重し、「自分はクラシック型寄りか、攻撃的WB 型寄りか、インバーテッドFB 型を目指せるか」が可視化される。

ユース年代の SB 育成 — 走力・両足・認知・ボール扱いの四本柱

SB を志す選手は、走力(90 分間のスプリント耐性)、両足の精度(左右どちらにもクロス)、認知能力(ピッチ全体を見る)、ボール扱い(インバーテッドFB に必要)の 4 軸を意識的に伸ばす必要がある。

1. 走力 (Sprint Endurance)

SB は試合中 11.5km・スプリント 50 本超を要求される。U-15 までに最大スピード(10m スプリント)と中距離走(YoYo Test レベル 18 以上)の両方を伸ばすことが重要。Rumpf et al. (2016) の研究では、12〜15 歳の最大速度トレーニングが成人後の最大速度を最も決定づけることが示されている。

2. 両足の精度 (Bilateral Skill)

左 SB は左足、右 SB は右足のクロス精度が必須だが、両 SB を経験する場合は両足の精度が必要。Memmert (2021) の研究によれば、12 歳までに両足比 60:40 を維持してトレーニングすると成人後も均一化する。Philipp Lahm、Joshua Kimmich は両 SB をこなす両足型の典型。

3. 認知能力 (Field Awareness)

SB はピッチの広い範囲を見る必要がある。CB との連携、CMF との位置関係、敵 WG の動きを同時に把握。Roca et al. (2011) のスキャン研究では、エリート SB は試合中の視線移動が CB より 1.3 倍多く、ピッチ全体を周期的にチェックしている。U-13 以降、ボールを受ける前に「内側 + 外側 + 後方」の 3 箇所を確認するスキャン習慣を身につけるべき。

4. ボール扱い (Ball Control)

インバーテッドFB を目指す場合、CMF 並みのボール扱いが必要。狭いスペースでのターン、敵 1 人を背負ったままのキープ、両足でのファーストタッチ。U-12 から「ボールキープ → 認知 → ボール扱い」の順で練習することを推奨。

SB の育成で見落とされがちなのは「走力」より「ボール扱い」と「認知」。U-12 から両足精度を伸ばし、U-15 で走力 + 戦術理解を深め、U-18 でインバーテッドFB を意識した中盤化練習を組み込むべき。

ケーススタディ — 4 タイプの代表選手から学ぶ

Trent Alexander-Arnold(攻撃的SB / インバーテッドFBハイブリッド)、Achraf Hakimi(攻撃的WB完成形)、João Cancelo(インバーテッドFB原典)、Andy Robertson(守備バランス型)の 4 人を分析する。

Trent Alexander-Arnold — クロス供給革命の起点

Liverpool アカデミー出身、生粋の Liverpool っ子。2018-19 UCL 制覇期から右 SB として開花し、2019-20 シーズンに 13 アシスト(プレミア SB 史上最多)を記録。「右サイドから AM 並みのアシスト」を実現した。後期は Klopp が中盤化(インバーテッドFB 寄り)に配置転換し、CMF / DMF としての適性も発揮している。xA 0.32 は WG 並み。

Achraf Hakimi — 攻撃的WB の完成形

モロッコ代表、Real Madrid アカデミー出身、Borussia Dortmund・Inter を経て 2021 年 PSG 加入。最大スピード 36km/h(リーグ最速級)、スプリント 60 本/試合、進歩的キャリー 11.8 本でリーグ最高水準。攻撃時は実質 WG 並みの貢献度、守備時もライン際で 1v1 勝率 62%。「攻撃的WB の現代版」として世界の手本。

João Cancelo — インバーテッドFB の原典

ポルトガル代表、Benfica アカデミー出身、Valencia・Inter・Juventus を経て 2019 年 Manchester City 加入。Pep Guardiola のもとで「左右両 SB から CMF にインバート」する役割を完成させた。2021-22 シーズン PFA Premier League Team of the Season 選出。パス成功率 91%、進歩的パス 9.5 本/試合は CMF 水準。インバーテッドFB という戦術的革新の象徴。

Andy Robertson — 守備バランス型の代表

スコットランド代表、Queen's Park アカデミー出身、Hull City を経て 2017 年 Liverpool 加入。Trent と対照的に「守備重視 + クロス供給」のバランス型 SB。1v1 守備勝率 68% はリーグ最高水準で、xA 0.28、スプリント 55 本/試合と攻撃面でも標準以上。Liverpool の左右非対称(Trent: 攻撃 / Robertson: バランス)戦術を支える。

4 選手すべてに共通するのは「90 分間の高強度走行」「両足精度」「認知能力」。フィジカルだけでなく、戦術理解と両足精度が現代 SB の核心である。

まとめ — SB は「サイド要員」から「ハイブリッド・ミッドフィルダー」へ

現代 SB は単独機能の選手では生き残れない。クラシック・SB、攻撃的WB、インバーテッドFB の 3 類型はあるが、すべてに共通するのは「攻守両面の高水準」「90 分間の高強度走行」「ボール扱い精度」である。ユース年代から走力・両足・認知・ボール扱いの四本柱を鍛えることが、トッププロへの道である。

本記事のキーポイントを整理する。

  1. 進化: 守備中心 (1990s) → 攻撃的 SB (2000s) → クロス供給アシスト (2010s) → インバーテッドFB (2020s)。役割が中盤に拡大している
  2. 3 類型: クラシック・SB、攻撃的WB、インバーテッドFB
  3. 4 機能: 守備、クロス、ビルドアップ、走力
  4. 5 指標: 1v1 守備勝率、xA、進歩的キャリー、パス成功率、スプリント数
  5. ユース育成: 走力、両足、認知、ボール扱いの四本柱。U-12 から両足精度、U-15 から走力、U-18 でインバーテッド練習

Footnote では、SB ポジションの 5 指標を試合記録から自動算出し、PVS として可視化する。「自分はクラシック型寄りか、攻撃的WB 型寄りか、インバーテッドFB を目指せるか」が一目で分かる仕組みを提供している。

参考文献

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最終更新: 2026-05-09Footnote編集部